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名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)24号 決定 1960年3月18日

抗告人 神谷宗一

訴訟代理人 鈴木正路

相手方 石川なぎ 外二名

主文

原決定を取消す。

本件を名古屋家庭裁判所岡崎支部に差戻す。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙添付のとおりで、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

原審判が抗告人の遺産分割申立に対しその相続権の有無について目下抗告人及び相手方間に名古屋地方裁判所岡崎支部において同庁昭和三十四年(タ)第九号親子関係不存在確認事件で係争中であることを認め、本件遺産分割事件においては相続人の範囲が未確定であるから遺産を分割するに由なく本件申立を不適法として却下したことは原審判書により明かである。記録によると抗告人は碧海郡知立町大字西中字永崎一四一番地石川慶蔵が昭和三十四年一月十五日同所において死亡し抗告人が同人の長男である旨戸籍簿に記載してあることを戸籍謄本によつて疏明している。原審判は共同相続人の一人が確定していない場合に後にその者が相続人たることに確定すると、法律関係が複雑になる為相続人が確定するまで分割を出来ないと考えたものと思われる。併し本件の場合は遺産分割の申立人が一応相続人たる地位を疏明して居り、単に前記親子関係不存在の訴によつてその相続人たる地位が不安定であるに過ぎない場合であるから、直にその申立を不適法として却下するのは相当でない。戸籍上共同相続人の地位にある者が単にその地位を争われている訴訟の係属によつてその確定まで遺産分割の申立を出来ないことになるからである。家庭裁判所は共同相続人の一部の者の相続人たる地位の不安定である場合には、それを考慮に入れて、親子関係不存在確認その他の通常訴訟の確定をまつか、民法第九〇七条第三項の規定する遺産分割の禁止その他適当の措置をとるべきである。それ故、親子関係不存在確認の訴訟の係属の為相続人の範囲が未確定であるとの理由でたやすく本件申立を却下した原審判は失当であるから、これを取消すべきものである。そして遺産分割にあたつては、原裁判所をして更に審理をつくさしめるのが相当であるから、本件はこれを原裁判所に差戻すべきものである。

よつて家事審判規則第一九条第一項に従い主文のとおり決定する。

(裁判長判事 県宏 判事 越川純吉 判事 奥村義雄)

抗告の趣旨および理由

原審判を取消し更に相当の御裁判相成度候

一、原審判は抗告人の為した遺産分割の申立に対し相手方から親子関係不存在確認の訴訟が提起せられたから相続人の範囲が未確定であるとの理由で抗告人の申立を却下した。

二、然し訴訟が提起せられたからと言つて、その判決が確定し戸籍が変更せられる迄は現在の戸籍によつて表示せられる身分関係に変動が生じ又は不明に帰するものとは考へられない。

三、また家庭裁判所は親子関係の存否に就ては審判権を有しないのであるから訴訟が提起せられたとの一事を捉へて直ちに親子関係が不明であるという判断(審判)を下したことは違法である。

四、親子関係不存在確認の訴訟進行中に遺産が分割せられることの弊害を防ぐ為には相手方から分割禁止の審判を求めることもできるし審判に対する再審の申立をすることもできる。

五、以上の諸点から看て原審は失当である。

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